原子の電子配置

電子の動き

 電子は一定の速度で原子の周りを動き回っているわけではなく、常にエネルギー変化を起こしながら周回している。電子のエネルギー変化は非連続であり、とびとびの値を持つ。このように物理量が非連続変化するものを量子化されているという。

3つの量子数

 電子の状態を把握するために用いられる整数(n、l、m)を量子数という。

 

n(主量子数)

 主量子数とは、電子が存在する原子殻を示す値である

 n=1はk殻、n=2はl殻、n=3はn殻、…と続く。そのため、nの値は、n=1、2、3、…となる。また、nの値が大きくなるほど電子エネルギーは大きくなる。

l(方位量子数)

 方位量子数とは、原子軌道を示す値である

 原子軌道とは、電子の動きを表す波動関数である。電子は原子の周りを円状に周回しているのではなく、複雑な軌道をもつ。この軌道を表すために、s、p、d、f、…といった名前が軌道に付けられている。

(豆知識)原子軌道のアルファベットは、軌道をMRIで表したときのスペクトルの形を表す単語の頭文字である。

 s(sharp):鋭い p(principal):主要な d(diffuse):拡散する f(fundamental):基本的な

 lの値は、(0≦l≦n-1)となり、0、1、2、3、…と、nの値が大きいほどlの範囲も増え、それぞれ、s、p、d、f、…と対応している。

m(磁気量子数)

 磁気量子数とは、軌道の方向性を示す値である

 軌道の方向性とは、例えばl=1のp軌道はアレイ型の軌道であり、軸で考えると-側、中心、+側と3つの方向性が存在する。これをそれぞれmを使って表すと、-1、0、+1と表すことができる。

 同様に、l=2のd軌道であれば、mの値は-2、-1、0、+1、+2と5つの方向性が存在する。

電子のスピン

 電子の状態を考えるうえで、上記の3つの量子数に加え、スピン量子数(s)も考える必要がある。

 電子は原子の周りの原子軌道を周回しているが、原子を太陽、電子を惑星と考えてみる。太陽の周りを惑星が回ることを公転といい、惑星自体が地軸によって回転することを自転という。この自転が電子におけるスピン(電子スピン)である。(公転にあたるスピンは核スピンという。)

 スピンは右回りと左回りの2通りがあり、s=±1/2の量子数である。この2つのスピンはたいてい、上向きの矢印↑(上向きのスピン)と下向きの矢印↓(下向きのスピン)を用いて表す。

 

 電子の配置

 電子の配置は以下の3つの原則において成り立っている。

構成原理

 電子はエネルギー順位の低い軌道から順に収容される

 軌道のエネルギー順位はn(主量子数)が大きくなるほどエネルギーは大きくなり、l(方位量子数)が大きくなるほどエネルギーは大きくなる。しかし、「M殻よりN殻のほうがエネルギーが大きい!」と考えることはできない。軌道のエネルギー順位を考えるためには下図のように軌道を書き、左下の矢印を上から順に書くことで求められる。

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電子の配置順位

 したがって、電子は1s<2s<2p<3s<3p<4s<3d<4p<…の順で配置される。

パウリの排他原理

 同一の原子軌道に収容される電子は1つのみである。これを言い換えると、電子は1つの原子軌道にスピンを逆向きにして2個まで収容できる

 パウリの排他原理は、電子の4つの量子数(n、l、m、s)が同じものは存在しないというものである。s(スピン量子数)は2通りしかないため、必然的に同一の軌道には電子が2つまでしか収容できないことになる。

フントの規則

 縮重のある軌道では、各軌道にスピンが同じ向きで1個ずつ収容される

 p軌道やd軌道には、軌道の方向や形が異なるが同じエネルギー順位の軌道が複数存在する。この状態を縮重という。

 縮重がある軌道では、すべての軌道に電子が1つずつ収容された後、逆向きのスピンで電子が埋まっていくことになる。