胃内容排出速度と薬剤

胃内容排出速度(GER)とは

 胃内容排出速度(GER:gastric Emptying Rate)とは、経口投与された薬物が胃から小腸に移行する速度のことである。

 一般にGERが高いほど小腸への移行が速くなり、薬剤の吸収も速くなる。(吸収部位に特異性を持つ薬物をは例外)

 

GERを変化させる要因

増加因子

 メトクロプラミドドンペリドン(抗ドパミン薬)

 コリン作動性薬

 交感神経遮断薬

 空腹

 

 メトクロプラミドはドパミンD₂受容体を遮断するため、アセチルコリンの遊離が促進する。その結果、腸管運動が亢進しGERが増加する。

 

低下因子

 抗コリン薬(アトロピン、プロパンテリン)

 三環形抗うつ薬(イミプラミン、アミトリプチリン)

 フェノチアジン系抗精神病薬クロルプロマジン

 モルヒネ

 食事

 左を下に横になる状態(幽門が体の右側にあるため)

 

 

胃内容排出速度を上昇させるものはどれか。

 1 食餌

 2 左を下に横になる状態

 3 メトクロプラミド

 4 プロパンテリン

 5 イミプラミン 

 

正解 3

食事摂取基準

覚えるべき5つの項目

f:id:wanimartpanda:20190110161442j:plain

a 「推定平均必要量」 

b 「推奨量」 

c 「目安量」 

d 「耐用上限量

+「目標量

 

f:id:wanimartpanda:20190110162044p:plain

 

推定平均必要量

 50%の人が必要量を満たす量のこと。摂取が足りていない栄養素に設定されている。三大栄養素ではタンパク質のみが含まれている。

推奨量

 98%の人が必要量を満たす量のこと。推定平均必要量と同様に、不足している栄養素に設定が設けられているためほとんど項目は同じだが、ナトリウムのみ外されている。

目安量

 推定平均必要量と推奨量で科学的根拠のない栄養素において設定された値である。そのため、ビタミンとミネラルにおいては推定平均必要量で設定されていない項目が目安量として設定されている。

「推定平均必両量の項目」+「目安量の項目」=「全ビタミン、ミネラルの項目」

耐用上限量

 上限量ということで、取りすぎると身体に害がある栄養素に設けられた項目である。ビタミンはA,D,E,ナイアシン,B₆,葉酸の6項目とNa,K,Crを除いたミネラルに設定されている。

目標量

 生活習慣病を予防するための基準値で唯一グラフには載ってない値である。この項目は、肥満や高血圧などの生活習慣病に関与すると考えられている栄養素に設けられた項目であり、主に三大栄養素(n-3系、n-6系脂肪酸を除く)とNa,Kに設けられている。

食品の機能

食品の3つの機能

1次機能「栄養的機能」

 炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルなどのヒトの身体に必要な栄養を補う機能

2次機能「嗜好的機能」

 食品の味や食感、見た目などの食事を楽しむための機能

3次機能「生体調節機能」

 血圧や免疫などの身体の様々な機能を調整する機能であるが、薬ほど顕著に効果は表れない

化学結合

化学結合の種類

 化学結合は、原子が他の原子と電子の受け渡しをすることにより原子同士がくっついている。化学結合は大きく分けてイオン結合共有結合配位結合の3つに分類することができる。これらの結合の違いは、電子の受け渡し方の違いである。

電気陰性度

 化学結合を考えるうえで欠かせないのが電気陰性度である。電気陰性度は単純に言うと、原子が電子を引っ張る力のことである。電気陰性度が大きいほど、電子を引き付ける力が強くなる。周期表で族が大きく、周期が小さいほど電気陰性度も大きくなる。ただし、希ガスには電気陰性度はない。これは、希ガスは最外殻電子がすべて埋まっているため安定な電子配置をとるためである。よって、最も電気陰性度が強い原子はF(フッ素)である。

 電気陰性度は、ポーリング式やマリケン式、オールレッド・ロコウ式とそれぞれ定義が異なったものが存在し、それぞれ値が若干異なるが、最も使われるのがポーリングの電気陰性度である。

f:id:wanimartpanda:20181202231914j:plain

ポーリングの電気陰性度

 この中で覚えておくべき原子は、H(2.1)、C(2.5)、N(3.0)、O(3.5)、F(4.0)である。覚え方は、Fが4.0と覚えておけば族が1つ下がるごとに0.5下がると覚えておけばいい。(水素はFと2.0以上の差がないと覚えておくと後に登場する水素結合と区別しやすくなる。)

イオン結合

 イオン結合は、陽イオンと陰イオンが静電的相互作用により引きあう結合である。

 では、静電的相互作用とはなにか?別の言い方ではクーロン力(F)ともいう。

f:id:wanimartpanda:20181202233740j:plain

 q,q₂:粒子の電荷、ε:誘電率、r:粒子間距離

 イオン結語は、二つの原子の電気陰性度の差が大きいときに生じる結合である。電気陰性度が低い原子は電子を放出しやすいため陽イオンになりやすい。一方、電気陰性度が高い原子は電子を受け取りやすいため陰イオンになりやすい。陽イオンが放出する電子を陰イオンが受け取る形で結合している。具体的には、電気陰性度の差が2.0以上あればイオン結合していると考えることができる。

 例としては、NaClがある。NaとClの電気陰性度はそれぞれ、0.9と3.1である。この差は2.2であるため、クーロン力が大きく働きイオン結合しているということができる。

共有結合

 共有結合は、不対電子をもつ原子同士が電子を1つずつ出し合って電子対を形成し共有する結合である。

 この結合をもつ原子は電気陰性度が高いものが多く、互いの電子を引き付ける力が強いため、結合も強固になる。具体例として、O₂、H₂、H₂O、CO₂、CH₄などがある。

f:id:wanimartpanda:20181203000807j:plain

 同じ原子同士の共有結合では電荷の偏りが生じないが、電気陰性度の異なる原子同士の共有結合では電荷の偏りが生じる。電気陰性度が大きいほうが負に、小さいほうが正に偏る。子の偏りをもつ性質を極性という。

配位結合

 配位結合は、原子がもつ非共有電子対が別の原子が持つ空軌道に入り込み、互いに電子を共有する結合である。

 電子を共有する点では共有結合と同じだが、他の原子の非共有電子対を受け入れるという点で異なる。電子を受け取る側が金属であれば、金属錯体となる。

水素結合

 これらの結合のほかにも分子相互作用による結合がある。その1つが分子間相互作用の一種である水素結合である。

 水素結合は、電気陰性度が特に大きい原子(F、O、N)と水素による結合である。

 水素結合は体内でタンパク質の高次構造DNAの塩基対形成に関与しており、重要な役割を持つ結合である。また、16族元素の水素化合物の沸点が高い理由にも水素結合が関与している。

 

原子の電子配置

電子の動き

 電子は一定の速度で原子の周りを動き回っているわけではなく、常にエネルギー変化を起こしながら周回している。電子のエネルギー変化は非連続であり、とびとびの値を持つ。このように物理量が非連続変化するものを量子化されているという。

3つの量子数

 電子の状態を把握するために用いられる整数(n、l、m)を量子数という。

 

n(主量子数)

 主量子数とは、電子が存在する原子殻を示す値である

 n=1はk殻、n=2はl殻、n=3はn殻、…と続く。そのため、nの値は、n=1、2、3、…となる。また、nの値が大きくなるほど電子エネルギーは大きくなる。

l(方位量子数)

 方位量子数とは、原子軌道を示す値である

 原子軌道とは、電子の動きを表す波動関数である。電子は原子の周りを円状に周回しているのではなく、複雑な軌道をもつ。この軌道を表すために、s、p、d、f、…といった名前が軌道に付けられている。

(豆知識)原子軌道のアルファベットは、軌道をMRIで表したときのスペクトルの形を表す単語の頭文字である。

 s(sharp):鋭い p(principal):主要な d(diffuse):拡散する f(fundamental):基本的な

 lの値は、(0≦l≦n-1)となり、0、1、2、3、…と、nの値が大きいほどlの範囲も増え、それぞれ、s、p、d、f、…と対応している。

m(磁気量子数)

 磁気量子数とは、軌道の方向性を示す値である

 軌道の方向性とは、例えばl=1のp軌道はアレイ型の軌道であり、軸で考えると-側、中心、+側と3つの方向性が存在する。これをそれぞれmを使って表すと、-1、0、+1と表すことができる。

 同様に、l=2のd軌道であれば、mの値は-2、-1、0、+1、+2と5つの方向性が存在する。

電子のスピン

 電子の状態を考えるうえで、上記の3つの量子数に加え、スピン量子数(s)も考える必要がある。

 電子は原子の周りの原子軌道を周回しているが、原子を太陽、電子を惑星と考えてみる。太陽の周りを惑星が回ることを公転といい、惑星自体が地軸によって回転することを自転という。この自転が電子におけるスピン(電子スピン)である。(公転にあたるスピンは核スピンという。)

 スピンは右回りと左回りの2通りがあり、s=±1/2の量子数である。この2つのスピンはたいてい、上向きの矢印↑(上向きのスピン)と下向きの矢印↓(下向きのスピン)を用いて表す。

 

 電子の配置

 電子の配置は以下の3つの原則において成り立っている。

構成原理

 電子はエネルギー順位の低い軌道から順に収容される

 軌道のエネルギー順位はn(主量子数)が大きくなるほどエネルギーは大きくなり、l(方位量子数)が大きくなるほどエネルギーは大きくなる。しかし、「M殻よりN殻のほうがエネルギーが大きい!」と考えることはできない。軌道のエネルギー順位を考えるためには下図のように軌道を書き、左下の矢印を上から順に書くことで求められる。

f:id:wanimartpanda:20181201200429j:plain

電子の配置順位

 したがって、電子は1s<2s<2p<3s<3p<4s<3d<4p<…の順で配置される。

パウリの排他原理

 同一の原子軌道に収容される電子は1つのみである。これを言い換えると、電子は1つの原子軌道にスピンを逆向きにして2個まで収容できる

 パウリの排他原理は、電子の4つの量子数(n、l、m、s)が同じものは存在しないというものである。s(スピン量子数)は2通りしかないため、必然的に同一の軌道には電子が2つまでしか収容できないことになる。

フントの規則

 縮重のある軌道では、各軌道にスピンが同じ向きで1個ずつ収容される

 p軌道やd軌道には、軌道の方向や形が異なるが同じエネルギー順位の軌道が複数存在する。この状態を縮重という。

 縮重がある軌道では、すべての軌道に電子が1つずつ収容された後、逆向きのスピンで電子が埋まっていくことになる。